fitibitを手がけるシリコンバレー“伝説”の日本人~起業・売却を繰り返す67歳、熊谷芳太郎氏に会った~

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  • 熊谷芳太郎(くまがいよしたろう)
  • 起業家

仙台市出身。1965年仙台一高卒業、69年法政大学卒業。同年、三菱鉱業セメント入社するも半年で退社し、ジョージア州アトランタ市にぶらり旅。73年Georgia State University卒業。
2009年、小型ビデオカメラ「Flip video を扱う「PURE DIGITAL ピュアデジタル)」社を、コンピューター機器を開発する「cisco に約590億円で売却。これまでスタートアップに参加した6社がや株式公開などの結果を出した。

 

シリコンバレーに“レジェンド”といわれる日本人がいる。67歳の熊谷芳太郎氏だ。スタートアップは9割以上が失敗するといわれる中、これまで熊谷氏が に参加した6社がM&Aされたり、株式公開されたりしている。2009年には、小型ビデオカメラ「Flip video」を扱う「PURE  DIGITAL(ピュアデジタル)」は、コンピューター機器を開発する「cisco」に約590億円で買収された。現在は、腕時計型万歩計の fitibit(フィットビット)を手がけている。 ビジネスで成功する秘訣(ひけつ)、気になるfitbitの今後は? 次世代のビジネスリーダーを育 成するプロジェクト「Ryukyufrogs(琉球フロッグス)」のメンバーに、熊谷氏が答えた。

―日本の会社を半年で退社、米国へ

法政大学を卒業して、三菱鉱業セメントに入ったものの、半年で辞めた。当時、私立大学からこの会社に入ったのは私が初めてで、周りの同期は同じ国立大学の先輩とよく会話をしていた。その姿を見て、僕がこんなところにいたらダメじゃないかと思って辞めちゃった。
そして計画もないままジョージア州にぷらっと来たが、手持ちが千ドルしかなくて、日本に帰ることができなくなってしまった。仕方なくアルバイトを始めた。
お金が貯まってきたので、米国の大学に行こうと思ったものの、入学するのは非常に難しい。しかも僕は英語ができなかった。ただ、日本の大学は出ていたので、3年生か4年生に学士編入することができた。その方法だと早ければ2年以内で卒業できた。そして、僕は卒業した。

みなさん、米国には興味があると思う。米国に来られる方法としては1カ月から1年くらいの語学留学は簡単にできるが、日本の会社を通して語学留学をすると、ものすごく高いお金を取られてしまう。でも、自分で手続きすれば400ドルくらいで収まる。自分でやるといいよ。
進学先として一番理想的なのは大学院なんだけれど、非常にお金かかるし難しい。だったら学部を卒業して働きだせばいい。大学院は働いて、30過ぎて行くのがベストだと思う。

大学を卒業してからは、ミシン会社で働いて、その後は年商400〜500億円のカメラメーカー「Vivitar(ビビター)」という会社で社長を務めた。そこが最後のサラリーマン人生だった。

―起業の全てがうまくいった

起業してまず最初は、カメラで人の動きを察知する商品を扱う「Gesture Tek (ジェスチャーテック)」を手がけた。
なぜなら、それより前に、私が手助けをしていた会社が、プロジェクターで床に映し出した絵が動くというソフトを持っていた。ゲームを動かすためには、ジャ イロセンサーという部品が必要。でも、ジャイロセンサーは1個500円と高かった。当時、携帯電話にはカメラがついていて、ジャイロセンサーも入ってい た。これらをどうにか活用したら安い部品に変えられないかと考えた。
すでにカメラが人の動きを見て、画像を動かすアプリがあったので、ジャイロセンサーを小さくして実験を始めたら携帯電話に使えそうだった。
そこで、docomo(ドコモ)に持っていった。するとdocomoの端末約5200万台に入れることになった。

2002年から携わったのが、音楽を不正に使用されない技術を開発する「Destiny Media Technologies(デスティニーメディアテ クノロジーズ)」。音楽メーカーは新曲のプロモーションに6万カ所以上のラジオ局や音楽関係者にCDを送っていた。音楽をネットで配信すると盗まれてしま うことを懸念したためだ。そこで、特殊な技術を開発し、不正使用できないようにした。そして音楽メーカーのUNIVERSALやSONYなどに売った。

2003年に立ち上げたのが、ビデオカメラを販売する「PURE DIGITAL(ピュアデジタル)」。当時、動画を撮って誰かにデータを送ることは非常 に難しかった。そこで、撮影したデータをUSBに入れて、ワンクリックで送れるというiphone(アイフォン)のような形の小型ビデオカメラ「Flip  video」を作ったら、爆発的に売れた。年商は約250億円、米国でのビデオカメラのシェアは60%を超えた。2009年、コンピューター機器を開発 する「cisco(シスコ)」が買収しにきた。そして約590億円で会社は売れた。

―株価1兆円超のfitbitとは?

今は腕時計型の万歩計を扱うfitbitに携わっている。
7年前、仲間と万歩計のビジネスについて話し始めた。最初、任天堂のゲーム機を使った体の動きを見て、センサーを賢く使って健康につなげたいというのがアイデアのきっかけだった。
4年前、万歩計のシェアはオムロンが90%以上、fitbitは1%だった。当時の競争相手はNIKEだったけれど、シェアが6%台から伸びなかったので、万歩計事業をすぱっと辞めちゃった。今はfitbitがシェア約85%とオムロンを逆転した。

―オムロンに勝てたワケ

万歩計の市場は「オムロン」が長いこと牛耳ってきた。

そこで、fitbitは、買ったら長く使ってもらえるような非常に簡単で使いやすい製品を目指すことにした。ユーザーのコミュニティーサイトにも力を入れた。なぜなら、売ることやアプリをダウンロードしてもらうためには、口コミ、使いやすさが最も大事だから。
使い始めた人は、コミュニティーサイトで製品について話してくれている。僕にとっても使っている人たちの声が毎日読めるは本当にうれしい。日本の人たちもいっぱい更新してくれている。

例えば、私のfitbitは、私のデータ以外に友達20人とデータを共有している。私の母親は仙台にいるけれど、歩いているどうか分かる。私が買えば、家族もfitbitを購入し、家族の友達も購入する。だから、宣伝よりも口コミが広がる。

―日本が世界で競争できない理由

日本と米国の違いはいくつかある。
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日本のメーカーはハード面は非常に得意。製品はきれいだけど、最終的にはほとんど売れなくなってしまう。日本が世界で競争できないのは、「アプリ」がないからだ。
私がこれまで手がけた製品はすべて簡単なもので、誰でも作れる。しかも、シリコンバレーには非常にユニークなソフトを作る人材がいる。その人材をうまく活用して、製品をより使いやすくしていく方針でやってきた。

たとえ失敗しても、悪いレッテルを貼られることが絶対ないのも違うところ。スタートアップをしても結局、ほとんどの人が失敗する。しかし、失敗した人が いっぱい集まると、物事に対して素早く動ける。失敗した経験は成功するために非常に生きてくる。日本の場合はあまり失敗経験のある人がいないから、スター トアップを成功させるのは非常に難しい。

もう一つはストックオプションだ。日本の場合、オーナーが握ってしまい、社員はほとんど持っていない。日本人はお金のために働かないというけれど、報酬があったら絶対頑張るし、私だったら成功を分かち合うような制度にする。

―伸びない企業の共通点はあの職種?

エンジニアはいつも開発ばかりにいきがち。ある程度で開発は止めて、売って儲かるようにしないといけない。特に、会社のトップにエンジニアいると、いつまでも開発をやってしまって、マーケディングや営業にお金をほとんどかけないんだよね。
日本の会社は、ほとんどそういう会社。
携帯電話もAppleよりも日本が先だった。万歩計もテレビも日本が先をいっていた。けれど、なんか知らないけれど消えちゃった。日本の会社はソフトにあ まり力を入れてないし、若い人がそういったことをやってしまうと上司に怒られちゃう。それが嫌で米国に来る日本人も結構いますよ。

それから、私の会社の商品は、1年か2年以上使ってもらうような仕組みにしている。ユーザーが500万人くらいに増えたら、ちょっとした新しい機能を付け加えて売る。それがうまくいっている。
日本の会社は最初から高級なことをやっちゃっている。
日本の会社の人に「熊谷さん、fitbitにGPSついてます?」と聞かれる。
そんなの考えたことない。
エンジニアは製品を複雑にしてしまう。
私はそんな難しいことはまずやらない。

例えば、20代の女性はGPSなんていらない。
だって、めんどくさい機能だから。
私の商品は、カメラもそうだが、とにかく製品そのものは難しくないけれど、超簡単に使いやすく毎日使ってもらえている。

―成功の秘訣(ひけつ)は“日本”

成功したのは、タイミングと運だと思う。
東大を卒業した人、スタンフォード大学を出た人、ほとんど失敗してるんだよね。
やっぱり、力以外の何かあるんだろうね。

fitbitは7年前に起業、販売開始は4年前。
オムロンは10年前にやって早かった。
みんなチャンスあるわけだよね。

私はもう67歳になるが、好奇心いっぱいで、日本に行くといろんなものを見て歩いている。それは、私が手がけてきた商品は、全て日本にあるものだからだ。 いいアイデアも全部、日本。毎月、日本に行って、友達と話してビジネスをやっちゃうわけ。日本的な感覚の新しいアプリが逆にビジネスになる可能性は大いに ある。世に出ている商品を使って何かを始めるのもいいんじゃないか。ゼロから開発していたら大変だし、日本にいたらいっぱいいろんなものがある。

―起業を目指す人へ

考えないでやってみたらいい。
一緒にやる仲間と思い切って起業するのが一番いい。

そして、マーケットのターゲットは日本ではなく米国がベストだ。
米国の場合、日本に比べて40~50倍のマーケットがある。fitbitにしても、Flipvideoにしても、全体の売り上げのうち、日本は数%しかないからだ。

あと一つ、サラリーマンをやっている間に起業するのがお勧め。収入がないと、生活するのはやっぱり大変だから。

日本はビジネスネタの宝庫。
センサーを買ってきて、商品付けたらできるでしょ。ヨドバシカメラ、ビックカメラを回ってもネタはいっぱいあるよ。

失敗は何度しても良いと思う。
とにかくチャレンジしてほしい。

(了)

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