裸の王様を生まないための、海自・特殊部隊の対話術

吉野 次郎 日経ビジネス記者】

 上司の間違いを指摘しないでいることが死に直結しかねない民間パイロットや海上自衛隊・特殊部隊の世界では、立場にかかわらず率直に意見交換できる組織づくり、対話術が発達した。同じような努力を重ねていれば、前回紹介した東芝や関西電力のみならず、今回取り上げる日産自動車や三菱電機のトップが、裸の王様に陥らずに済んだかもしれない。それは世界で一番と言っていいほど社内の序列を気にする日本人の価値観への挑戦でもある。

 青空とビーチが美しいスペイン領カナリア諸島は、アフリカのモロッコ沖に位置する常夏の観光地だ。7つある島のうち、テネリフェ島の空港滑走路では、KLMオランダ航空のジャンボ機が欧州からの観光客を大勢乗せ、管制塔から離陸許可を待っていた。

 操縦かんを握っていたファン・ザンテン機長の指示で、副操縦士は管制塔から管制承認を受けた。だがこれは目的地までの飛行経路に関して承認を得たにすぎない。それでも、長時間待たされイラついていたザンテン機長は構わずに、「行くぞ……スロットル確認」と副操縦士に告げて、滑走を始めてしまった。

 この時、濃い霧に覆われて視界が利かない滑走路の上を、米パンナム航空のジャンボ機が移動中だった可能性があった。だが副操縦士は黙ったまま。

 2人の後方に座っていた機関士が、「まだパンナム機は(滑走路を)出ていないのでは?」と指摘しても、ザンテン機長は「そうそう」と言い放って加速を続けた。これがボイスレコーダーに残るほぼ最期の言葉になった。

 14秒後、KLM機は高速でパンナム機に突っ込み、両機合わせて583人が死亡した。

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