ベトナムにおける飲食店設立時の留意点

2014-03-30-20.23.03 近年ベトナムでは、安価な労働力を求めて多くの輸出加工型の日系メーカーが 進出しており、中堅・中小メーカーの進出事例も増加しています。在留日本人の急増に加え、ベトナム人の所得向上に伴い、日系のサービス業や小売業のベトナ ム進出も今後本格化するとみられます。そこで今回は、ベトナムの外食産業の現状と、飲食店を設立する際の留意点を解説します。 

年率15%以上の成長が続くホーチミンの小売市場

人口700万人を擁するベトナム最大の都市ホーチミンは、同国の小売市場の約3分の1のシェアを占める最大の商業都市でもあります。

  ホーチミンの市街地には、伝統的な「パパ・ママショップ」の飲食店や小売店が数多く立ち並ぶ一方で、レストランを併設したデパートや商業施 設も増加しています。現状は、さながらGMS(大型小売店)が全国展開する前の、日本の昭和40年代以前の様相といえるでしょう。右写真は、ホーチミンの 中心地、フエンフエ通りの旧正月(テト)前の様子です(2010年2月撮影)。旧正月前後の約1週間は、日本でいえば盆と正月が一緒に来たようなシーズン で、ライトアップされた大通りには多くの市民が繰り出し大いににぎわいます。

 表1.ベトナム全体とホーチミン市の小売データ(2009年)

市場規模
(億米ドル)
全国シェア 前年比
伸び率
平均所得
(米ドル/年)
ベトナム全体 約200 100% 32% 約1,000
ホーチミン 約60 約30%(1位) 39% 約3,000

出所:市場規模やホーチミンの平均所得は筆者調査による推定。その他はGeneral Statistics Office of Vietnam

 

表1は、ベトナム全土とホーチミン市の小売データを示したものです。市場規模はホーチミンが60億米ドル、ベトナム全土でも200億米ドル余りと まだ小さいですが、注目すべきは30%を超える伸び率です。多くの専門家は「商業都市であるホーチミンの小売市場は、今後5年以上は15%以上の成長が続 く」と見ており、これは市場全体としての平均的な成長率ということです。一方、急成長の弊害ともいえるのが急激なインフレです。2010年の消費者物価指 数(CPI)上昇率は前年比約12%と高い上昇を示していることから、各種調達コストの上昇や為替変動リスク(ベトナムドン安)に注意が必要です。

日系飲食店の進出状況

 ベトナムでは近年、製造業を中心に多くの日系企業が進出しています。サービス業や飲食業を含む小売業の進出件数は、これから本格化するところでそれほど多くありませんが、在留邦人の増加に伴い2010年から進出相談は増えてきています。

 外務省の「海外在留邦人数調査統計(2009年10月1日現在)」で在留邦人数が世界第4位であるタイのバンコク(在留邦人数:3万3152 人)と、同30位のホーチミン(同:5385人)の日系飲食店の進出状況を比較してみましょう。バンコクには多くの日系飲食店が進出しているほか、生産か ら販売までを一貫して行っている食品メーカーも少なくないことから、食材調達も比較的容易であると言えます。一方ホーチミンの日系飲食店数は、レタントン 通りなどを中心に50店舗前後で、主な顧客は駐在員や旅行者などの日本人です。しかし、前年比92%増という在留邦人数の増勢から、日本食レストランの ニーズは増大すると予想されます。また、製造および卸売り目的の日系食品メーカーや、コンビニや大手流通業の進出で日本食に親近感を感じ、日系の飲食店を 利用しようというベトナム人も増加しています。
 このように、将来性が期待できるベトナムの外食産業ですが、以下にベトナムで飲食店を開業する際に押さえておくべきポイントを挙げます。
【1】出資形態
 2007年のWTO加入以来、ベトナム政府は外資の参入を段階的に解放していますが、飲食店については外資100%独資による法人設立が難し い状況にあります。そのため日系飲食店は一部の例外を除き、ベトナム人名義の店舗・法人または現地企業との合弁形態としながら、実質的なオーナーは日本人 というケースが多いようです。
【2】投資ライセンスの取得
 ベトナムでは法人設立手続きが日本と異なり、すべて実質的に許認可に近い状況にあることから、投資ライセンス取得が法人設立と同義となります。投資ライセンス取得には、以下の書類を商工省に提出し、審査を受ける必要があります。
  1.定款(公証・認証されたもの)
  2.登記簿謄本(公証・認証されたもの)
  3.決算書(公証・認証されたもの):1年以上の社歴が必要
  4.銀行口座の残高証明書(英語・米ドル表記、銀行印のみで公証不要)
  5.法人代表者のパスポート(公証およびベトナム大使館・領事館での認証コピー)
  6.会社概要、商品パンフレット:日本でのビジネスの実績を示すもの
  7.合弁契約書(合弁の場合)
  8.店舗の賃貸借契約書
 さらに、飲食店を開業する場合は輸入権と販売権(卸売と小売に分かれる)を取得する必要があります。また、飲食店を含む小売業は、店舗についても許認可事項になります。
【3】食材の調達
 飲食店を営業するうえで食品卸売業者の存在は必須ですが、ホーチミンには少ないながらも日系業者(名義はベトナム人)が所在するほか、共同仕 入れも行われているようです。近年、日本の食材を入手する手段は増えていますが、投資ライセンスや関税の問題もあり、自由に輸入できるというわけではあり ません。また、ロットが限定されることから、単価が割高になるという問題もあります。

このように、ベトナムで飲食店を開業するには高いハードルを乗り越える必要がありますが、こうした中で下記のように成功を収めている日系飲食店もあります。

【成功事例】ホーチミン市内に5店舗を構え、ベトナム人・外国人で賑う日本食レストラン 「The Sushi Bar」はホーチミン市の中心部である1区などに直営5店舗を構える日本食レストラン。客層の8割はベトナム人で、その客単価は平均30万~40万ドン(1円=250ドン換算で1200~1600円)と、ベトナム人の平均的な昼食代は5万ドン弱、1カ月の外食費は30万ドン程度とされる中、富裕層が来店していることがわかります。ちなみに、同店の日本人の客単価は20万ドン台(800~約1200円)とのこと。オーナーは成功の要因として以下を挙げています。ベトナム人パートナーの存在 ベトナムの経済成長 「外国物」に抵抗感がなく、いち早く取り入れる越僑による口コミ オープンな店づくり 食材へのこだわり 顧客志向のメニュー開発 適正な価格設定

ベトナムにおける飲食店ビジネスの課題

 このように成功する日系飲食店がある一方で、ベトナムでは外資系飲食店に対する参入障壁やチェーン展開に関しては、まだ多くの課題が残されています。以下に、留意すべき主なポイントを列記します。

【1】外資飲食店に対する参入規制
 2007年1月のWTO加盟により、ベトナムでは原則として外資の参入が開放されましたが、条件付きで段階的に開放を進める(飲食店など)、法律が整備されていない、実質的な審査が厳しいなど、業種によって対応が異なっているのが現状です。
 外資の飲食店については、「WTO加盟時から8年間(2015年まで)はホテルの建設投資と同時に実施することとし、その後は無制限になる」 と明文規定されていますが、これを反対解釈すると「2015年までは新設のホテルに併設するケースを除き、外資による飲食店の開業は認可されない」という ことになります。ベトナムの飲食店事情を勘案すると、2015年に外資による飲食店開業が無制限になるのかは疑わしい部分もあります。
【2】2店舗目問題
 ベトナムに飲食店を開設した後、店舗網を拡充する際に問題となるのが「2店舗目問題」と呼ばれる店舗規制です。小売業に関する政策案第28条 では、外資系の飲食店を含む小売店舗が2店舗目以降を出店する際には「Economic Needs Test」(ENT)を課しており、出店地域の小売店舗数、市場の安定性(需要と供給)、人口密度などが許可の要件となります。なお、上記の成功事例で取 り上げた「日本食レストラン」は代表者がベトナム人であるため、この規制は障壁になっていないようです。
 この規制は、具体的な実務細則や外国企業の定義が明確にされていないため、混乱が生じることがあります。ひとつの例として、ベトナム初の ショッピングモールを開設した韓国系の大型小売店が2店舗目を出店した際、1日営業した後に当局より閉店を迫られ、半年後に再オープンした、という出来事 がありました。実情は不明ですが、2店舗目のENTテストが不適合であったためと言われています。
【3】ベトナム人の名義人との関係
 前述のとおり、ベトナムの日系飲食店は、ベトナム人名義の法人あるいはベトナム人との合弁形態としながら、実質的なオーナーは日本人という ケースが多くなっています。この場合、法人の法的な所有権はベトナム人の名義人にありますが、将来的に名義人と経営の方向性が食い違ってくる可能性もある ことから、経営・運営におけるガバナンスのほか、金銭面や当該法人の売却(EXIT)に関する問題が生じる懸念があります。金銭面については、ベトナム人 名義人に対する配分が問題となることが多いので、日本人責任者が現場で管理を行うことが必須です。なお、ベトナムでは海外送金が厳しく制限されており、外 貨の持ち出しは1回の渡航につき7000米ドルが上限となっています。
【4】人材の採用・教育
 ベトナム人のサービスに対する考え方は日本と異なる点も多いため、現地スタッフが接客できるまでには十分なトレーニングが必要です。また、ベ トナム語しか話せない現地スタッフの候補者を日本人がスクリーニングするのは難しいので、日本語が話せる幹部社員の採用は必須になります。ただし、この幹 部社員に人材採用を任せた場合、自分の派閥を形成するために縁故採用をするなど、不正の温床となる可能性もあるので注意が必要です。
【5】販売コミッション
 ベトナムではさまざまな販売コミッションが習慣として存在しており、実勢レートは2~15%といわれています。これらがオープンなセールス・ インセンティブとしての制度であればよいのですが、たとえば、食材仕入れなどの調達担当者が個人へのキックバックを得るために高い食材を調達する、などと いった不正が起こる可能性もあります。

フランチャイズ展開、早期参入が有効な戦略

ベトナムFCJ

 先に触れた2店舗問題を解決し、ベトナムで多店舗展開を図るには、フランチャイズ展開という選択肢が有効です。フランチャイ ズ方式では個々の店舗はベトナム人名義となりますから、各種規制がクリアできる可能性が高くなります。フランチャイズ方式に関しては行政当局も歓迎してい るようで、ホーチミン市内を見渡してみても、米国、ベルギー、韓国の大手ファストフードや大手小売りのフランチャイズ店が営業許可を得て多く立地するほ か、ローカル資本のコーヒーやフォー(ベトナムの米粉麺)のフランチャイズ店もあります。

フランチャイズ展開に際しては、フランチャイズとしての販売権を商工省に登録したうえで、当該企業がベトナム国内で1年間営業すれば、現地の企 業・個人にフランチャイズ権を付与できます。現状では、ベトナムでフランチャイズ展開をしている日本企業はコンビニくらいですが、今後は増加すると思われ ます。

 フランチャイズ展開で留意しなければならないのが、商標の問題です。ベトナムでも類似商標の問題があり、商標登録を怠ったた めに他社に登録されてしまった、あるいは類似商標に悩まされる、などの問題も発生しています。ベトナムでの商標登録費用は日本よりも格安ですので、早期に 商標登録(形状登録を含む)を行うことが望ましいでしょう。

 このように、ベトナムで飲食店を開業するには多くの課題があり、これを解決するのは現状ではなかなか困難と言えます。そのため、保守的な上場 企業はベトナム市場への参入に二の足を踏むケースもみられます。しかし、課題が多いからこそ参入すれは成功のチャンスがあり、メリットを追求できる、と捉 えることもできます。今後ますます成長性が期待できるベトナムで、飲食店ビジネスに挑戦する中小企業が増えることを期待しています。
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